東京地方裁判所 昭和45年(ワ)5865号 判決
原告
水町暢宏
ほか一名
被告
古川芳枝
ほか一名
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
事実
第一、当事者双方の求める裁判
(一) 原告
(1) 被告らは各自原告らに対し各金五三五万七三一〇円およびこれらにこれらに対する昭和四五年七月四日より支払済迄年五分の割合による金員を支払うべし。
(2) 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言を求める。
(二) 被告
(1) 原告らの各請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第二、原告ら主張の請求原因事実
(一) (事故の発生)
訴外亡水町信之は左記の交通事故(以下本件事故という)によつて死亡するに至つた。
(1) 発生日時 昭和四四年一二月七日午前一一時三〇分頃
(2) 発生場所 東京都町田市鶴川五丁目一二番二号先道路上
(3) 加害車軽自動車(登録番号6多摩7874)
右運転者 被告芳枝
(4) 事故態様
被告芳枝は、鶴川団地バス引返所方面から能ケ谷方面に向け本件事故現場附近道路(車道幅員九・〇七米)を加害車を運転中、先行するバスを追い越すための無理な運転により、道路左端に駐車していた車両と車両の間から出て来た被告者信之の左顔面に加害車の左前部を激突させた。
(二) (責任原因)
被告らは共同で「吉川販売店」の商号で牛乳の販売等の業を営んでおり、加害車は被告孔也の所有であつて、被告芳枝は牛乳空瓶の回収等右業務執行のため加害車を運行中本件事故を発生せしめたものであるから、被告らは加害車の運行供用者として自賠法三条による責任を負う。
(三) (損害)
(1) 治療費関係 一八万〇九八九円
亡信之は、受傷後町田市内の鶴川病院および新倉医院に入院し、昭和四四年一二月一四日死亡するまで、右各病院で治療につとめたが、その間の治療費一一万六八〇〇円、氷代等の治療費付随費一万四五八九円、付添看護料相当損害金四万一六〇〇円、入院雑費八、〇〇〇円の合計金額は右の通りである。
(2) 葬儀費 二九万三八九三円
(3) 逸失利益 一〇七一万三一八三円
亡信之は、本件事故当時満七歳の健康な男児であつた。
(4) 原告両名の慰藉料合計金 五〇〇万円
原告両名は、亡信之の両親であり、亡信之はその間の唯一人の子供である。
(四) (損害填補) 五四七万三四四五円
原告らは、自賠責保険から五〇〇万六六四五円の填補を受け、被告らから治療費として一一万六八〇〇円、葬儀費として三五万円の支払を受けた。
(五) (結論)
よつて、被告らは、原告らに対しそれぞれ亡信之の相続分二八五万七三一〇円および慰藉料二五〇万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和四五年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第三、被告ら主張の答弁・抗弁事実
(一) (認否)第二(一)(1)(2)(3)を認めるが同(4)を争う。(二)、(四)を認める。(三)は争う(但し(4)の身分関係は認める。)。
亡信之は、道路の左側に四・五台駐車していた車両の間から折りたたんだ約一メートル四方のダンボールの空箱を持つて飛び出し、加害車の後部左角付近に衝突したものである。
(二) (抗弁)被告芳枝は制限時速四〇キロメートルの道路上を時速二五キロメートルで走行中、前記のように亡信之が飛び出して車の後部に衝突したものであるから、被告芳枝に過失がなく、亡信之に重大な過失がある。加害車に構造上の欠陥および機能上の障碍がない。
第四、(証拠)〔略〕
理由
原告主張の日時場所で、被告芳枝運転の自動車に原告らの子供信之が衝突し、死亡するに至つたことおよび請求原因(二)項の事実(責任原因)は当事者間に争いがない。そこで、本件事故により被害者が蒙つた損害を算定する。
(一) 訴外亡信之の逸失利益
(1) 稼働期間 満二〇才より満六三才までの四三年間
(2) 稼働開始までの期間 一三年間(亡信之は当時七才の男子―甲六号証戸籍謄本)
(3) 養育費 一ケ月一万円
(4) 稼働開始後の生活費 収入の二分の一
(5) 収入 一ケ月五万八〇〇〇円、年間賞与その他の特別給与額一六万五六〇〇円(昭和四四年度賃銀センサスによる男子産業労働者平均収入)
(6) 現価換算方法 法定利率による複利年金現価表による(ライプニツツ式計算係数による。ホフマン式は、係数が二〇を超え、期毎に利息を受領することにより稼働全期間の逸失利益を回収しても期間経過後なお元金が残存する結果となり、明らかに不合理であるので採用しない。
(7) 計算
(58000円×12+165000円)×1/2×(18.6985-9.3935)-10000円×12×9.3935=287万8582円
右により亡信之の逸失利益損害は二八七万八五八二円である。
(二) 原告らの慰藉料
訴外亡信之を失つたことによる原告らの慰藉料は、後記同訴外人の過失を除外して、斟酌すると各一五〇万円が相当である。
(三) 葬儀費
弁論の全趣旨から原告ら主張のとおりの葬儀費を出捐したことが認められるが、このうち本件事故と相当因果関係のある損害は二〇万円が相当である。
(四) 治療関係費
〔証拠略〕から、原告ら主張の治療費、治療付随費、入院雑費を出捐したことが認められ、又付添看護をした事実も推認されるが付添看護費のうち三万二〇〇〇円をもつて事故と相当因果関係ある損害と認める。よつてその総額は一七万一三八九円となる。以上(一)乃至(四)を合計すると、
本件事故による亡信之および原告らの損害総額は、六二四万九九七一円となる。
ところで、運転者吉川芳枝が全く無過失であつたかどうかについては、これを認めるに足りる確証があるとは言いがたく、被告らの免責の抗弁は理由がないというべきである。
しかしながら〔証拠略〕によれば、訴外亡信之は、本件事故現場の加害車進行方向左側に駐車していた車両の間から、飛び出して加害車と衝突したことが認められる。また事故現場は商店が歩道端に立ちならんでいるが、その対面は石垣があつて商店はなく、頻繁な人の横断等が予測しうる場所であるとも窺えない。
そうすると訴外亡信之の本件事故に与つた過失を過失相殺として斟酌するに当り、同人が年少者であることを十分考慮しても、これを三割以下に評価することは出来ない。
原告らは訴外亡信之が路上でしやがむなどして停止している状態のところへ、加害車が衝突してきたということを主張するかの如くであるが、本件全証拠によるもそのように窺える資料はない。さらに衝突部位が前部バンパー左端附近であつたか否かについて、争いのあるところではあるが、仮りに原告ら主張の部位に衝突したものとしても、訴外亡信之の前記過失相殺の斟酌の割合は右程度を下ることはない。
そこで、前記過失総額を三割減額して被告に請求しうるものとすると、被告ら請求しうる損害総額は、原告ら固有分と亡信之の相続分とを合わせて四三七万四九七九円となる、ところが、原告らが既に損害の顛補として五四七万三四四五円を受領していることは当事者間に争いがない。そうすると、前記損害は既に顛補せられているから、原告らの本訴請求は失当として棄却を免れない。
よつて、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 坂井芳雄 浜崎恭生 佐々木一彦)